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日銀は金利を上げられない、1ドル136円は通過点に過ぎず

2022年07月25日 不動産レポート

中央銀行による国債の買い占めを反映

 世界の主要国はインフレ経済に悩まされ、そのインフレ抑制に向けて金利を上げている。日本のインフレ率は諸外国に比べて抑えられており、日銀は引き続き金融緩和を継続する。低金利政策は続けられる見通しだ。ただ、利上げ機運がいつ高まってもおかしくないとの見方もある。日米の金利差が広がり歴史的な円安に見舞われ、金融緩和限界論が浮上しているためだ。ドル円相場は新型コロナウイルス感染当初は1ドル110円を切る水準で推移していたが、足元は135円を超える水準まで円安が進行している。不動産市場は金利との相関性が強いだけに日銀の金融政策に不動産関係者は注目している。

 

 米国のエコノミストからは、米国の景気インデックスが下がり始めているほか、不動産向け待機資金はアジアで減少傾向にあるなどグローバル的にはターニングポイントに近づいているとの指摘が出始めている。国内の一部邦銀が不動産向け融資で回収に動き出す可能性も意識され始めているようだ。

そうした中で、日銀による国債の保有割合は5割を超えた。発行済みの国債の半数を中央銀行が買い占めている状態だ。日銀は国債を発行し、銀行から国債を買い取っている。銀行としては、国債の売却によって得た資金を企業や個人に貸し出せるようになる。これにより市中にマネーがあふれて、それが株や不動産に向かった。市中をお金でジャブジャブにすることは、インフレにするということだ。

 

ちなみに日銀は、時の政権の思惑によってお金を刷らないように独立性が求められている。市場を経由せずに国から国債を直接引き受けることは、財政規律を守るために禁止されている。保有できる長期国債の残高を日銀発行高の範囲内とする日銀券ルールを設けたが、2013年以降はそのルールは停止状態となっている。

米国ではそのインフレが行き過ぎてインフレ抑制に動き出し、急ピッチで利上げを始めているが、日本の場合、国債の買い手はほとんど日銀が占めており、長期金利の指標となる新発10年物国債をみると、日銀の保有割合は9割に迫っている。利上げを実施すると利払いが急増して日銀が耐えられなくなるので、低金利を続けざるを得ないとの観測が少なくない。それを見透かして日米の金利差は今後も拡大する。いまの1ドル135円や136円の水準は通過点に過ぎず160円、170円となってもおかしくないとされる。

 

日銀破綻のシナリオは現実味を増すか

諸外国と違い日本は、随分と前から大規模な金融緩和をしてきた。2013年の安倍政権の経済政策であるアベノミクスまでさかのぼれる。継続的な2%のインフレに向けて、デフレ脱却に向けて、財政ファイナンスを大規模にやってきた。だが、行き過ぎたインフレ、そう遠くない時期にハイパーインフレになるのではないか。そんな懸念も意識され始めている。

 

ハイパーインフレともなれば、もはや日銀の金融政策では抑えきれず世の中が混乱する。仮にそうなると、1946年(昭和21年2月)に日本で実際にあった預金封鎖や、過去にドイツで起こった中央銀行を潰して新しい中央銀行を創設したようなことが中長期先の日本に待ち構えている。そんな大胆な日本クラッシュのシナリオを描く専門家も少なからずいる。昭和21年2月の預金封鎖は、戦後の物不足と通貨の増発を受けて悪性のインフレを引き起こしたことに対処したもので、新しい円を発行して旧紙幣が使えなくなった。2週間以内に新札に切り替えられなかった紙幣はすべて紙くずとなってしまった。

 

「日本の景気が良くなることが、その引き金だ」。そんなシナリオが存在する。なぜか。いま日銀はものすごい勢いで国債を購入している。そして、その国債利回りは0.25%以下に抑え込むという長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)で実質ゼロ金利政策を保っている。債券は価格が上昇すると利回りが低下する関係にあるが、過去に日銀が高い値段で購入した債券は、価格が下落すると評価損が発生する。景気が良くなって利上げ局面を迎えると利払いの増加と評価損のダブルパンチを被る。日銀が危ないと言われるゆえんだ。長期金利は1%になっただけで黄信号がともると警鐘を鳴らす専門家もいる。

 

円が暴落するシナリオも想定

日銀の体質、考え方も古い。元外資系証券マンで経済評論家の1人は、時価会計が世界の主流であるのに対して未だに前世紀の遺物である簿価会計で逃げ切れると思っているフシがみられるという。中央銀行が潰れるわけがないと日本の銀行業界も高をくくっていると指摘する。しかし、米国はそうではない。米国の銀行は、日本であろうと、ドイツであろうと、イギリスであろうと、各国中央銀行のリスクを踏まえて取引枠を設定している。

日銀を時価で評価したときに、長期金利が上がると債務超過に陥ってしまうことも予想されている。その場合、米国の銀行が取るべき行動としては日銀との取引枠を削ったり、最悪はゼロにすることが考えられる。つまり、最悪のケースでは、円という通貨がドルとのリンクをなくしてしまい円の価値が暴落するというシナリオだ。 

 

日銀が債務超過になってしまうと「為替スワップ協定」に影響を及ぼす。例えば日銀では、米連邦準備理事会(FRB)に円を担保にしてドルを借りて、国内のメガバンクにドルを貸し付けたりする。日銀が債務超過に陥ってしまうと、この為替スワップ協定に支障を来す公算が大きい。ドルに換えられない通貨に外国人は寄り付かず、現在の1ドル135円の騒ぎではなくなる。このため、協定を続けるにしても米国からは増税などの改善要求を突き付けられることは想像に難くない。円という通貨としての脆弱性が増すことは健全な経済社会活動に影響を与える。

 

感染再拡大しても岸田政権で経済後退の政策はない

これら前述した最悪のシナリオは、どこまで現実味があるのかは定かではない。ただ、日本が利上げに踏み切れない状態にあることは確かだ。そうであれば、円の価値が下がるとともに、日本の資産が安く買えるため外資が不動産を買いあさるという光景は、1991年にバブル経済がはじけた後、リーマン・ショック後に証明済みである。為替が円安に大きく振れているのでインバウンド需要と商業店舗などは徐々に見直されており、特にコロナ禍の直撃を受けて底に這いつくばってきたホテル・旅館などの宿泊業や飲食店・サービス業は、訪日客の増加に伴い回復に向かうとの見方が一般的だ。

 

参院選を終えてから3年間は大きな選挙がないことで、政府は政策を自由に進められる。7月10日投開票の参院選は、自公が過半数を維持して勝利。改憲勢力3分の2を超えた。参院選の応援演説中に安倍元首相が銃撃により死亡したことによる今後の政局への影響は読めないものの、挙岸田首相の支持が盤石となり、さまざまな政策にも踏み込みやすくなることは変わらない。新型コロナの感染者数が再び増加傾向に転じているが、緊急事態宣言のような厳しい措置を取らないで経済の正常化に向けて舵を取り、訪日客への門戸も徐々に広げていくとみられる。

岸田政権は、円の信任を取り戻すために、国の財政健全化に向けて、経済が後退するような政策が取りづらくなっているのは確かだと言えるだろう。